パソコンはデリケートな精密機械であり、外的要因によって故障する恐れがあります。外的要因による故障には衝撃や熱、内部への埃の蓄積などが挙げられますが、雷サージという現象にも注意が必要です。
そもそも雷サージとは何か、どんな被害が懸念されるのか知らない方もいるでしょう。この記事では、雷サージの概要や多発しやすい時期などについて解説します。大切なパソコンを守る方法をご紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
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雷(らい・かみなり)サージとは、落雷したとき、一時的に短時間で発生する高い電圧や過電流のことです。電線や通信線などを介して建物内の電気系統に流れてしまうと、電子機器の故障や誤作動などを引き起こしてしまいます。
近年の電子機器はネットワーク化が進んでおり、電源コードだけではなく、LANケーブルなど複数のケーブルが接続されている製品が増えました。また、耐電圧の低い製品も多くみられます。多くのケーブルとつながるパソコンや家電は、雷サージの影響を受ける可能性が高いと言えるでしょう。
雷サージに起きる被害には、パソコンや周辺機器の破壊やデータの消失、火災が挙げられます。ケーブルから伝わる過電流がメイン基板を破壊すれば、パソコンや電子機器は起動不能となってしまうでしょう。
パソコンを分解してみると、基盤が黒く焼け焦げていたというケースは珍しくありません。そのため、過度な電圧・電流がかかることで、火災を招く恐れがあります。また、被害はパソコン1台ではなく、モデムやルーターに接続するすべてのパソコンやパソコンに接続される周辺機器に及ぶ可能性もあるでしょう。
年間の落雷による推定被害額は、1,000~2,000億円とされています。ここまで高額なのは、直接落雷の被害を受けるケースだけではなく、営業停止や火災などの二次災害も含まれているからです。企業であれば業務に欠かせないパソコンや電子機器が壊れたり、建物内で火災が発生したりすれば、経済活動にも大きな支障が出てしまうリスクも懸念されます。
日本の場合、雷が起きやすい時期は夏場の8月とされています。この時期は、パソコンや電子機器が落雷により故障するケースが増加しやすい傾向にあるので注意しましょう。
また、雷の発生しやすい時期は地域によって違いがあります。太平洋側は4月から10月、日本海側は11月から3月に雷が発生することが多いです。
そもそも雷が発生する原因は、積乱雲にあります。積乱雲は霰や雹といった小さな氷の塊を含んでおり、それがこすり合うことで発生する静電気が雷の正体です。
氷の塊がこすれ合う際に雲の中にプラス(正)とマイナス(負)の電荷が発生し、正電荷は雲の上方、負電荷は下方に溜まっていきます。積乱雲の下方に負電荷が溜まっていくと、地面に正電荷が帯びるようになります。雲に溜めきれなくなった電気を逃がそうと、負電荷が地面の正電荷に向かって放出されるのが、落雷発生のメカニズムです。
太平洋側の場合、夏場の強い日差しで暖められた空気が上昇することで、積乱雲が発生しやすくなります。反対に日本海側は冬になるとシベリアからの冷気が流れこみ、その空気が比較的暖かい日本海によって暖められることで積乱雲が発生してしまうのです。
雷サージは、発生する要因に合わせて3種類に分けられます。公益社団法人 全国市有物件災害共済会が作成する「公共施設のための雷害対策ガイドブック」によると、落雷被害は誘導電サージや逆流雷が原因となっているケースが多いようです。各種類の特徴を知った上で、雷対策をしていくことが大切になります。
建物・アンテナ・電線などに直接雷が落ちることで発生します。たとえば電線に雷が落ちた場合、その電線を通じて過電流が建物内に入り込み、電子機器の損傷が生じます。このケースでは、火災が起きることもあるため注意が必要です。
雷は背が高いものや先が尖ったもの、金属が多く使われているものに誘導される性質があります。高層や鉄筋構造の建物は、直撃雷サージの被害を受けやすいので特に注意しましょう。
対象物に対して雷が直接落ちるため、雷サージによる被害を防ぐのは難しいと考えてください。しかし、避雷針や避雷器により落雷の直撃を防ぐことができれば、雷サージの被害も回避できる可能性があります。たとえば外部LPSを使うことで、雷の電流を大地に逃がせるので、落雷被害を減少させられるでしょう。
地面や樹木に落雷した影響により発生するのが、誘導雷サージです。落雷により周辺に高電圧が発生すると、誘導電流が引き起こされ、近くの電線や通信線などを通して過電流が流れ、パソコンや電子機器に影響を与えます。地面以外に雷雲や大気から雷サージが建物に入り込んでしまうケースもあるため、落雷がなかったからといって油断大敵です。
このケースでは、避雷針を使って雷を避けることはできません。そのため、落雷被害で電子機器が壊れてしまう原因としてよく挙げられています。また、被害が部分損傷だけというケースもあり、落雷被害を受けていたことに気付かないケースも珍しくありません。
雷サージの侵入経路は不明というケースも多く、原因がわかったものに関しては複数の配線から侵入しているケースもあります。部分的な対策では不十分となる可能性があり、包括的な対策が必要になると言えるでしょう。
建物や避雷針、樹木などに落ちた雷の電流が地面を通じて、配線や接地から建物内に入り込んでしまう現象です。侵入経路が配線とは限らないため、接地雷サージとも呼ばれています。
逆流雷サージの場合、電流の衝撃は大きいものの、被害が限定されることが多いです。とは言え、パソコンが壊れてしまうこともあります。特に大きな被害がなくても部分損傷が起きており、パソコンの劣化が早まってしまう恐れもあるので注意しましょう。
雷による被害はそうそう起きるものではありませんが、万が一のときのためにも対策を講じてパソコンを守ることが大切です。ここで、意識的に取り組みたい雷サージ対策をご紹介しましょう。
天気が崩れ、雷の音が鳴ったら早々にパソコンの電源を切り、コンセントから電源ケーブルを外しましょう。雷サージは、パソコンの電源がオンになっていない状態でも被害を与えます。雷サージの侵入経路である電源線からケーブルを外し、外部とのつながりを遮断することで被害を食い止められます。
侵入経路が電源ケーブルとは限りません。モデム・ルーターにつながるLANケーブルも外しておくと安心です。
雷は外出中に発生することも多いです。悪天候と予報される日に長時間外出を予定している際は、用心して電源やLANケーブルを抜いておくことをおすすめします。
電源タップの中には、雷サージの保護機能が付いたものもあるので、それを使うのもおすすめです。雷が鳴ったらコンセントからケーブルを抜く対策が望ましいものの、毎回その作業をやることは困難でしょう。
保護機能付きの電源タップであれば、雷サージを減らし、パソコンに高電圧・電流を送らない仕様になっています。外出中に急な悪天候で落雷が発生し、コンセントからケーブルを抜くことができない状況でも、雷サージの影響を軽減することが可能です。
サージ保護機能付き電源タップが耐えられる最大電圧は、製品ごとに異なります。落雷被害の多くは誘導雷サージによるものとなり、その電圧は1,000Vから数万V以上となります。できるだけ最大電圧が高いものを選びましょう。
他にもコンセントに直接挿入するタイプと延長コードタイプがあります。コンセントの位置や使用場所に合わせて適切なタイプを選んでください。製品の中には、雷サージの侵入を目視できる作動ランプ付きのものもあり、そちらを使用するのもおすすめです。
落雷により停電が発生すると、パソコンを含む電源が必要となる機器のすべてが使えなくなってしまいます。パソコンが強制終了されてしまえば、直前に開いていたデータが保存されなかったり、破損したりする恐れがあるでしょう。
停電時の対策としておすすめなのが、無停電電源装置(UPS)の使用です。UPSをパソコンに接続しておくことで、停電が発生したときも一時的に電力を供給することができます。強制終了を防げるので、大切なデータを保存した上で電源を切り、コンセントからケーブルを外すという行動をとることが可能です。
停電時にコンセントにケーブルを挿しっぱなしだと、復旧時に電子機器が一斉に再運転する影響でヒューズやブレーカーが飛んでしまうことがあります。そのため、電力が大きい電子機器は優先的にコンセントからケーブルを抜いておくと安心です。
機種にもよりますが、UPSの電力の供給が可能な時間は数分~30分程度が目安となります。長時間持つわけではないので、注意してください。
データのバックアップをこまめにとっておくことも雷サージ被害の対策になります。雷サージの影響でパソコンが起動しなくなったり、データが消えたりすれば、データの復旧は困難です。
しかし、バックアップがあれば、修理や買い替えたパソコンにデータを戻すことができます。特に消えては困る重大なデータは必ずバックアップをとっておきましょう。
バックアップ先にはUSBや外付けHDD・SDD、クラウドが挙げられます。クラウドであれば物理的な記録媒体を必要としないので、外付けハードディスクが壊れたり、紛失したりした場合にもデータの復旧が可能です。ただし、容量に限界があり、足りないときは容量を増やす対応が必要になるので注意しましょう。
雷サージ被害の対策として、火災保険に入っておくのもおすすめします。対策になる理由は、基本補償に落雷被害も含まれているからです。
加入している場合、落雷によりパソコンや家電が故障、家具が燃えてしまった場合は補償を受けられる可能性があります。火災保険の補償範囲や内容などは保険会社ごとに異なるので、確認した上で加入しましょう。
賃貸物件の場合、建物の所有者ではないので火災保険に加入できるのか疑問に思う方もいるでしょう。賃貸暮らしでも火災保険に加入することは可能です。
そもそも、最近の賃貸物件では、契約の条件に火災保険の加入を義務付けているケースがほとんどです。一般的には不動産会社が用意する火災保険に加入しますが、任意で保険会社を選んで加入することもできます。その場合、事前に不動産会社や大家さんに伝えて承諾を得て、自ら加入手続きを行わなければなりません。
落雷が原因で発生する雷サージは、パソコンを破損させる恐れがあります。電圧・電流のレベルによっては火災が発生し、二次災害を引き起こす可能性がある点にも注意が必要です。 雷は自然現象であるため、いつ雷サージの被害を受けるかは誰にも予想はできません。万が一のときのためにも、事前の対策が必要不可欠です。雷サージ保護機能付きの電源タップやUPSの導入をはじめ、データのバックアップをとる習慣づける、火災保険に入るといった方法で万全に対策しておきましょう。
監修者/前田 知伸
富士通を経て、リブート㈱代表取締役。パソコンリサイクル業15年目。国内外のIT資格を保有。NHKなど出演実績有り。